新しいカタチのパルクール

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パルクールって知っていますか?
この質問をすると、多くの人がこう答えます。
「ビルとビルの間を飛び越えるやつでしょ?」
そう、間違ってはいません。これは“ストリートパルクール”と呼ばれるジャンルで、パルクールの代表的なイメージとして世の中に広まっているものです。
ですが、この答えを聞いてそうそう!かっこいいでしょ!」と嬉しくなる人もいれば、「うーん…そのイメージちょっと嫌だな〜」と少しモヤっとする人もいます。
なぜこのように感じ方が分かれるのでしょうか?
それは、パルクールという文化やスポーツが、新しい形へと進化しつつあるからです。


パルクールの原点はストリートじゃない?

現在のパルクールは「街中の壁や手すり、屋上などを使って自由に動き回るストリートスポーツ」として知られていますが、実はそのルーツはまったく異なります。

元々パルクールは、軍人のトレーニングとして使われていた「パルクール・デュ・コンバッタン(parcours du combattant)=軍用障害物走」を基にしたものです。

その後、フランス・パリの若者たちが街中の環境を使って「どうやったらより効率的に、速く、美しく移動できるか?」を追求し始めたことで、現在のパルクール、いわゆるストリートパルクールへと発展していきました。

ちなみに「パルクール(PARKOUR)」という名前自体も、フランス語の“parcours”を元にした造語です。


では、なぜ今、新しい形が必要とされているのか?

パルクールは今、大きく2つの方向へと進化・派生しようとしています。

それが、

  • 競技としてのパルクール
  • 運動教育としてのパルクール

です。

この2つの流れは、実はとても自然な流れなのです。理由を詳しく説明します。


① 競技としてのパルクール

パルクールは、世界中で競技人口が増え、技術レベルもどんどん進化しています。人間の身体能力を極限まで引き出す技の数々が映像で拡散され、注目度も上がっています。

最近では、国際大会やプロ大会も開催され、明確なルールが整備され始め、より“スポーツとしてのパルクール”が確立しつつあります。パルクールがオリンピックの正式種目になる動きもあり、スポーツ界での存在感が高まっているのです。

とはいえ、まだまだ“ストリートカルチャーの延長”というイメージが強く、実際の大会でも地面がコンクリートで行われることも少なくありません。競技の安全性や環境整備は、今後さらに進化していくべき課題でもあります。


② 運動教育としてのパルクール

もう一つの進化が、「運動教育」としてのパルクールです。

これは特に子どもの発育・運動神経向上の分野で注目されています。

パルクールの動きは、「跳ぶ」「登る」「渡る」「くぐる」といった、人間の本能的な動作をベースに構成されており、これは発達段階にある子どもにとって極めて有効な運動です。

実際に、幼児〜小学生の時期にこのような全身を使う運動をすることで、脳の発達(特に運動野や前頭葉)を刺激し、身体と頭の両方の成長をサポートするという研究結果も出ています。

さらに、パルクールは「自分で考え、自分で選択し、自分でリスクを判断して動く」ことが求められるスポーツです。だからこそ、運動能力だけでなく自己判断力・集中力・創造性・自信といった、現代社会で求められる非認知能力の向上にもつながります。

つまり、パルクールは、単なるかっこいいストリートパフォーマンスではなく、「教育的価値のある運動プログラム」としても、今まさに進化しているのです。

まだ“過渡期”にあるからこそ、イメージは混在する

今のパルクールは、“ストリート” “競技” “教育”の3つの顔を持つようになってきました。

ですが、世間的にはまだ「ビルの屋上を飛び越える危ないスポーツ」というイメージが強く、パルクールの本当の価値が伝わりきっていないのが現状です。

そのため、どの視点から語るかによって、パルクールをしている本人でさえも反応が変わってしまうのです。

パルクールは今、“文化”から“産業”へと変わる狭間にいるのです。

良くも悪くも“狭間”にある

カルチャーと産業、どちらが正しいという話ではありません。
しかし、その間にある違和感や摩擦を見逃してはいけません。

  • 「勝ち負けがないから良かったのに、今は点数で評価される」
  • 「自由な表現のはずなのに、ルールで縛られる」
  • 「精神的な成長が目的だったのに、いつの間にか競技成績がゴールになっている」

これらは、文化が産業に飲み込まれるときにどのスポーツ・芸術分野にも起こる葛藤です。

パルクールは、まさに今その“狭間”に立っているのです。


産業として広がる価値と責任

産業としてのパルクールは、多くの人に届くための手段になります。

  • 安全な施設
  • 専門教育を受けたインストラクター
  • 正式な料金体系と保障
  • 地域貢献や教育プログラムへの導入

こうした整備は、パルクールを“社会に認められるスポーツ”へと引き上げます。
そして多くの子どもたちが、安心して、楽しく、運動に向き合える場を作ることができます。

ですが同時に、忘れてはならないのは、
カルチャーとしての原点=自己探求と自由な身体表現の価値です。


私たちの立ち位置:文化を守り、教育に昇華する

BeMo Plusは、産業としての責任ある形でパルクールを伝えながらも、
その根底にある「カルチャーとしての精神性」を大切にします。

  • 勝ち負けを強制せず、技術の習得を自己選択とする
  • 小学生に過度な競技負荷を与えず、心身の成長を最優先にする
  • “できるようになる喜び”を積み重ねる教育としての設計

競技でもカルチャーでもない、第三のパルクール=運動教育としての位置づけを私たちは大切にしています。


結びに

パルクールが文化から産業へと移ろうとしている今、私たち指導者や教育者に求められているのは、
どちらかに偏ることではなく、その間に立つ意志です。

自由であることと、責任を持つこと。
型がないことと、安全であること。
楽しさと、学びの両立。

それらを両方大切にできる指導・教室・運営こそが、これからの時代に求められる
“次のパルクール”の形なのだと、私たちは信じています。

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